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帯匠 誉田屋源兵衛十代目当主・山口源兵衛さんが語る『倭文ー旅するカジの木』 「京都できもの、きもので京都」vol.14

帯匠 誉田屋源兵衛十代目当主・山口源兵衛さんが語る『倭文ー旅するカジの木』 「京都できもの、きもので京都」vol.14

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「僕はものをつくるとき、その原点を知りたい性分でね。帯匠としても『帯の原点は?』と自分に問うわけです」

2024.06.25

よみもの

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映画『倭文ー旅するカジの木』

倭文(しづり) 旅するカジの木

各地で公開予定のドキュメンタリー映画『倭文ー旅するカジの木』。

日本神話に現れる幻の織物・倭文しづりを巡る大いなる謎解きは、私たち現代人に「衣服とは何か?」と迫ります。

映画制作の発起人でもある帯匠おびしょう 誉田屋源兵衛こんだやげんべえ十代目当主・山口源兵衛さんに、映画にまつわるお話を伺いました。

きっかけは、帯屋を継ぐと決心した約半世紀前

創業285年の歴史を感じさせる社屋は隅々まで手入れが行き届き、黒地に白抜きで染められた「誉」ののれんが威風堂々。

番頭さんたちの法被姿もカッコよくて、一気に誉田屋ワールドに引き込まれました。

「誉」ののれんが威風堂々

映画のなかにも出てくる打ち合わせの部屋に、源兵衛さんはいらっしゃいました。

そのお着物姿は、どんな言葉も寄せつけない無敵スタイルです。

そのお着物姿は、どんな言葉も寄せつけない無敵スタイル
そのお着物姿は、どんな言葉も寄せつけない無敵スタイル

真紅の襦袢がちらり。帯は印伝の宝尽し文様

『倭文ー旅するカジの木』の監督・北村皆雄さんと源兵衛さんは、NHKのBSドキュメンタリーで4年間ご一緒したという深いお付き合いがあり、この映画制作が実現したそう。

源兵衛さんは27歳のとき、誉田屋を継ぐことを決めました

遡ること半世紀近く前、源兵衛さんは27歳のとき、誉田屋を継ぐことを決めました。

季節は10月、それまで美術館にも博物館にも行ったことがなかった青年は、まず11月の正倉院展に行ったのです。

そこで見て衝撃を受けたのが糞掃衣ふんぞうえ」(ボロ裂を洗い清め、重ね合わせて縫った七条袈裟)。穢れを着るのが僧侶、という道元の教えにも心を打たれました。

源兵衛さんを古代布、原始布と呼ばれる織物に誘ったのです

同時期、日本の起源を知りたいという思いから、万葉集を眺めていたら「倭文布」という単語が目に入りました。

これは日本最古の織物ではないか? そう仮説を立てた源兵衛さん。「糞掃衣」の圧倒的な力と「倭文布」という言葉が、源兵衛さんを古代布、原始布と呼ばれる織物に誘ったのです。

「その原点を知りたいと思うんです」

「僕はものをつくるとき、その原点を知りたい性分でね。帯匠としても『帯の原点は?』と自分に問うわけです

貴重な写真を見せてくれました。

「例えば、現代でもエクアドルのある地域へ行くと、原住民は老若男女みな、裸に帯1本結んで暮らしてる。これは結界であり信仰でもあり、これこそ原点だと思ってこの写真を大事にしてるんです」

貴重な写真を見せてくれました。

そんな源兵衛さんの探究心からスタートしたドキュメンタリー。

4人の染織家が、倭文の創造的復元に挑む姿を追っていきます。

源兵衛さんは西陣の職人を結集して神話の帯を、石川文江さんはカジの木の樹皮から糸を績み、妹尾直子さんはカジの樹皮を漉いて紙布を、西川はるえさんは日輪月輪文様の幡を織り、今でも「倭文神」が祀られている大甕おおみか神社にて奉納の儀式を(作品は奉納されていません)。

5年の歳月を費やしてさまざまな角度から倭文を追ったこの映画によって、私たちは「衣」の意味を突きつけられます。

きものを愛する人たちの心のひだに染み込み、腑に落ちる。そんな映画ではないかと思うのです。

源兵衛さんを訪ねて

「売れても売れんでも、ええ帯はええ」

12柄のなかのいくつかを見せていただきました

帯匠としての源兵衛さんは「これだけはつくって死のう」と決めた帯があり、その15品のうちまだ3品がつくれてないと言います。

12柄のなかのいくつかを見せていただきました

そんな12品のなかのいくつかを見せていただきました。

12柄のなかのいくつかを見せていただきました。

100年後の変化が楽しみだという銀箔、孔雀の羽を織り込んだもの、唐織に螺鈿、宗達の牛図など……

惜しみなく贅を尽くし、芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました。

芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました

千姫の打掛から復元した風格ある逸品。紫陽花の花に菊の葉という組み合わせから、幼き千姫に想いを馳せる

芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました

神々しさすらをも感じさせる『螺鈿麻の葉』。高貴に煌めくジュエリーのよう

芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました

超絶技巧に絶句……これが織り表現によるものとは。俵屋宗達『牛図』

芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました

”継げなきもの”― もはや入手不可能な古箔を用いた作品。この色味この風情は現今のものであり、100年後はまた別の顔に

芸術的な昇華を帯幅に描き切ったものからは、凄みすら感じられました

孔雀の羽を織り込んだ希少品。陽光を受けてその翠緑は幻想的な光の粒となる

「僕はケッタイなところがあって、こんな帯をつくりながら、12年前に浴衣もつくり始めてね。社員はもちろん、誰も彼もみんな反対したけど、これが大成功」

と、カラリと笑う源兵衛さん。

そもそも、呉服業界にはいるけれど、業界のことは見てはいないと話します。

ますます誉田屋源兵衛の個性に惹かれました

「そんなんはどうでもええ。売れても売れんでも、美しいものは美しい、ええ帯はええ。それだけ」

ますます誉田屋源兵衛の個性に惹かれました

宝物級の帯も、カッコいい浴衣も、面白い意匠の帯もつくれてしまう源兵衛さんの自由な創作熱。

「西陣は分業だから、わかってくれる職人たちを守らなくてはならない」という強い責任感―

ますます誉田屋源兵衛の個性に惹かれました。

今日の着こなし

源兵衛さんがみんなの反対を押して作り始めた浴衣から、3年前にあつらえた『月照乱華』を。

3年前にあつらえた「月照乱華」

月下美人を思わせる妖艶な花が描かれた浴衣は、半衿を入れてきもの風に。

夏絹のショールは『夏織り工房』坂口智美さんのどんぐり染め。

半幅帯は、源兵衛さんが倭文の創作的復元のために声をかけた、染織家・西川はるえさんの「日暮れの頃やんばる」。

染織家・西川はるえさんの「日暮れの頃やんばる」

ネパールの大麻やイラクサを使い、草木染めした織の帯を吉弥結びに。

三部紐には陶芸家・高橋奈己さんの「実」をつけて。足元はしな布の木草履です。

三部ひもには陶芸家・高橋奈己さんの「実」
しな布の木草履

撮影/弥武江利子

倭文(しづり) 旅するカジの木

映画『倭文(しづり) 旅するカジの木

上映館などの情報は公式サイトをご確認ください。

2019.12.12

イベントレポート

誉田屋源兵衛 特別展示レポート〜「温故知新」伝統の技と革新の精神〜

2024.01.30

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