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中村萬太郎夫人 小川絵美子さん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.4  ―着物が深めてくれるお客さまとのつながり

中村萬太郎夫人 小川絵美子さん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.4  ―着物が深めてくれるお客さまとのつながり

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先月の「六月大歌舞伎」にて、五代目中村時蔵さんが初代中村萬壽さんを、四代目中村梅枝さんが六代目中村時蔵さんを襲名、そして、六代目時蔵さんのご子息・五代目中村梅枝さんが初舞台を踏む、「萬屋よろずや」三代そろっての襲名披露が行われました。今回は、萬壽さんの次男であり時蔵さんの弟である初代中村萬太郎ご夫人にご登場いただき、劇場での装いから、思い入れのあるお品の紹介、着物の魅力などをうかがいました。

2024.06.07

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劇場でお客さまをお迎えする装い

──「劇場でお客さまをお迎えするさいの装い」をテーマにお越しいただいております。どのようなお召し物かうかがってもよろしいですか。

日頃から緊張感を持つこと。

中村萬太郎夫人・小川絵美子さん

基本的に初日と千穐楽の日は訪問着ですので、今日はそういった日の装いになります。これは訪問着と付下げのあいだくらいのものでしょうか。

青色が好きですので、青みのある着物を選んでまいりました。ところどころにかわいらしい色も入っているので、それに合わせて組み合わせてみました」

中村萬太郎夫人・小川絵美子さん

「実はこちらのお着物、大阪にいらっしゃるお客さまからお譲りいただいたものなんです。

いつも品のあるお着物をくださるのですが、どれも素敵なお品で選べないので、義姉の素美と互いに似合う色をお姫様気分で分けさせていただいております(笑)」

2024.05.13

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──その人その人に映える色がありますものね。青藤色の着物がとてもお似合いで、季節の花々の描かれ方も素敵です。帯はどうでしょうか。

帯は川島織物さんです。こちらもかわいらしい色が入っているところが気に入っています。

顔がきつく見られてしまうことがあるので、青系統の色が好きではあるのですが、あまり冷たく見られないように、色などで柔らかさを足すように意識しています」

川島織物の帯

──明るいお色目できれいですね。帯締めに柄物をもってくるのも洒落ています。

柄のある帯締め

「明るい色ばかりだと締まらないので、少し濃い色目のものを、と思いまして」

──お扇子はやはり……

イノシシの扇子

文扇堂さんのものです。私も文扇堂さんのお扇子が大好きです。これかわいいんですよ、イノシシなんです。

私が亥年というわけではなく……今日は草履に赤が入っているので、お扇子も端に赤の入っているものを選んだらイノシシ柄でした」

※文扇堂……義母・小川晃枝さんの贔屓のお店

2024.04.16

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文扇堂さんの扇子

義母、義姉と同じく、手書きで名入れされている

2021.12.21

まなぶ

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──草履のお好みなどはありますか。

「今日、履いてきたものはどちらのものか失念してしまいましたが、ここぞというときは、ぜん屋さんのお草履ですね。

あと、義母もよく申しておりますけれども、カレンブロッソさんのものは履きやすいので重宝しております。台の前の部分が少し上がっているのがいいんですよね。

子供がまだ小さいのでちょろちょろ動いていると、台が低ければ低いほど足袋を踏まれるんです。台が上がっていると、被害が少なくなります(笑)。幼稚園に着物でお迎えにいくこともありますし、子育て中の方にはおすすめですね」

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名乗りながらお声がけを

──劇場でお客さまをお迎えするさいに気をつけていることなどありますか。

「お客さまには、こちらから先にお声がけをしたいと思っていることでしょうか。

ただ、新型コロナの影響でご挨拶も自粛しなければならない期間に、髪型などイメージを変えられた方がいらっしゃいまして、マスクと相まってお声がけするときに『人違いだったら』と不安になることがありました。

だいたいは優秀な番頭に助けられております。

逆にお客さまのほうも、私がマスクを付けていると気付かれないことも多いので、名乗りながら近づくようにも心がけていますね。

お客さまとの会話は好きですし、着物を着る機会がそれによって増えるのもうれしいことなんです。楽しんでさせていただいています」

中村萬太郎夫人・小川絵美子さん

──演目に絡めた着物などお召しになったりしますか。

「そうですね、『紅葉狩』が上演されているときには紅葉のものが入るようにしたり、團菊祭でしたら季節は違うのですが、菊を入れてみたりします。

季節に沿ったお芝居をすることが多いので、着るものも、季節を意識して選ぶようにしていますね。

ただ、お芝居の演目に絡めて、というほど着物のバリエーションはまだ持っていないので……小道具などでも取り入れられたら素敵でしょうね。そういう方には憧れます。

これが着物の楽しさかな、と思いますね。洋服では、気温のことは考えても、季節感や柄についてまではそれほど考えませんから」

季節を意識して着るものを選ぶようにしています。

演目とはまた違いますが、劇場によって着るものへの意識が変わることもありますね。

例えば名古屋にある『御園座』は数年前にリニューアルされて内装が真っ赤になりましたので、御園座へいくときに選ぶ着物の色はどうしてもその赤を念頭において、というのがありますね(笑)」

2024.06.07

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──歌舞伎俳優の妻として、生活の面で気をつけていることなどはありますか。

名乗りながらお声がけを

「公演中は料理にニンニクを使わないようにしております。義母もそうだと思うのですが、相手役の方がいらっしゃるときには控えますね。主人はあまり気にしていないみたいですが、相手役の方から『今日は焼き肉を食べます』とお電話いただくこともあるみたいですので。

私自身が気をつけていることというのは、思わぬところでお客さまにお会いしたりすることがあるので、日頃から緊張感を持つようにしています

自分に合った着方ができるのも魅力

──着物は結婚前から着ていらしたのでしょうか。

着るようになったのは、結婚してからです。結婚前に着付けを習いに行きまして、成人式以来着物に袖を通していなかったな、と気付きました。

以前勤めていた先のビルの1階が呉服屋さんでして、通るたびにショーウィンドウを憧れの気持ちで拝見していたんですけれど、遠い世界のことだと思っていたので、まさか自分がそのなかへ入っていくとは思ってもみませんでした。結婚の折、そのお店のご店主に挨拶にうかがいました」

とにかく着続けることが上手に着るコツ。

──着物を上手に着るコツなどはありますか。

義母に相談すると、とにかく着ることよ、と言われたので、先生に習ってからはすぐに着るようにしていました。

ただまだ着慣れていない時期にコロナ禍に入ってしまったので、ふたたび劇場へ行くとなったときにすっと着られず、やはり着続けていないといけないのだなと実感しました

──着物の好きなところはどんなところでしょうか。

季節感があるところと、洋服にはない色味を着られることなどでしょうか。

洋服ですと地味な色のものを着ることが多いので、着物を着ると5歳になった娘が、この着物かわいいね、とか、この色好き、と褒めてくれるんですね。褒めるというよりファッションチェックが入る感じですが(笑)」

季節感があるところと、洋服にはない色味を着られること。

「また、着れば着るほどに馴染んでくるところも好きですね。自分に合った着方ができるところもいいです。

今も京都きもの市場さんの店内を拝見していると(取材撮影は京都きもの市場 銀座店にて実施)、ああいうのも素敵だな、こういう色味もあるのね、など限りなく心動かされるので、着物って本当に楽しいなぁと思います。着物に着られないよう、着こなしていきたいと思います

思い入れのあるお品

──思い入れのあるお品をお持ちいただきました。ピンクの暈かしが美しい七五三のお着物ですね。

七五三のお着物

京丹後の小林染工房さんで染めていただいた着物と被布です。娘が三才の七五三で着ました。

萬屋の桐蝶にちなんだ蝶と、9月生まれなのでコスモスを入れてかわいらしく。暈かしが本当にきれいですよね、裾に濃い色を入れて締まるようにして」

七五三1

撮影/羽田哲也

「私が小林さんのところで作ってもらいたいくらいなので……贅沢な経験ですね。

義父(初代中村萬壽)の楽屋のれんも小林染工房さんに染めていただいたブルーのものなんです

──「丹後ブルー」が有名ですものね。

「義母から『小林さんのところにお願いしようと思っている』と聞きまして、ピンクの色の加減ですとか柄の位置について、私からも提案させてもらいました。

七五三以外では、後援会の新年会でも何度か着ましたでしょうか。もうさすがに着られなくなってしまいました」

「次は7歳ですが、そのころには本人のこだわりが強くなっているでしょうから、どんな感じにするのか……

本人も着物は好きでして、日本舞踊の稽古でも喜んで着ているくらいです。義母が、着られなくなった着物を仕立て直して娘の稽古着にしてくれています」

七五三2

撮影/羽田哲也

──やはり、みなさんに作ってくださるんですね。

「そうなんです。私も義母からどれだけいただいたことか…… 思わず『お義母さん、まだお持ちなのですか?』とつい言ってしまうくらいに(笑)。

受け継いだもののなかから、それぞれ似合いそうなところへ渡していってくれる、そんなことがまた着物の魅力でもあり、義母に学ばせてもらっています

──そして、こちらのかわいらしい千歳飴の袋は……

かわいらしい千歳飴の袋

お客さまに日本刺繍の先生がいらして、なんと、お祝いに作ってくださったものなんです!宝物ですね。

梅枝の初お目見えの際にも、楽屋用に、背中に桐蝶を施したバスローブをいただいていまして、今回の(五代目中村梅枝)襲名にあたっても刺繍してくださったようです」

2021.04.27

まなぶ

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着物ファンへのメッセージ

好きなお着物を好きなように楽しんでいただけたら

「私のような新参者がメッセージだなんておこがましいです。自分自身、着物ファンになったばかりという認識でして。

好きなお着物を好きなように楽しんでいただけたら、と。その一部に歌舞伎があったらいいな、という感じでしょうか。歌舞伎のあとにお食事を楽しみに行くなど、歌舞伎がメインではなくてもいいので、着てみていただけたらと思います。

みなさまと一緒に着物を楽しんでいけたらうれしいです。

公演情報

7月3日から大阪松竹座で始まります「七月大歌舞伎」に、中村梅枝改め六代目中村時蔵さんと初代中村萬太郎さんご兄弟が、昼夜ともに出演されます。

昼の部は時蔵さん、萬太郎さん出演の『藤娘』『俄獅子』ほか、初代 中村萬壽襲名披露狂言として『恋女房染分手綱』に初代中村萬壽さん、五代目中村梅枝さんも出演されます。

夜の部は六代目中村時蔵襲名披露狂言として『八重桐廓噺』が上演されます。

チケットなどの詳細はこちらのサイトをご参照ください。

取材コーディネーター/akemi
取材・構成・文/渋谷チカ
撮影/TADEAI 久野藍

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