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夏の夜の幻想に酔う 〜小説の中の着物〜 皆川博子『ゆめこ縮緬』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十八夜

夏の夜の幻想に酔う 〜小説の中の着物〜 皆川博子『ゆめこ縮緬』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十八夜

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小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、皆川博子著『ゆめこ縮緬』。匂やかな毒気にあてられ、幻想世界に酔う。大正〜昭和初期を舞台とした、アルコール度数の高い芳醇な酒のような作品を集めた短編集。脳内に、古いフィルムを観ているようなーエッジが曖昧で、どこか霞んだようなー映像を浮かび上がらせる……そんな物語を、寝苦しい夏の夜のお供にどうぞ。

2024.05.29

まなぶ

溺レル幸福 〜小説の中の着物〜 谷崎潤一郎『痴人の愛』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十七夜

今宵の一冊
『ゆめこ縮緬』より「文月の使者」

皆川博子『ゆめこ縮緬ー文月の使者ー』集英社文庫

皆川博子『ゆめこ縮緬ー文月の使者ー』集英社文庫

 明石縮か薄く透けたすがすがしい夏ごろも。パラソルが、くるりとまわったような気がする。いや、パラソルなんぞさしてはいなかった。襟足を涼やかにみせた櫛巻くしまき。身にまとったのも、白地に藍の菖蒲を染めた浴衣。素足に下駄。その鼻緒が男物のような黒で……ぬかるんだ道を、足の指もかかとも真っ白なまま。
 なにしろ、振り向いたときは姿がなかったのだから、声から想像をたくましくするほかはない。ちょっとしゃがれぎみの、それでいてなまめかしい……。
 声の主ばかりではない、だれひとり、人の姿は見えない。
 昨夜の雷をまじえた豪雨が、中洲の住人をきれいさっぱり洗い流してしまったとでもいうのか。

皆川博子『ゆめこ縮緬ー文月の使者ー』集英社文庫

今宵の一冊は、皆川博子著『ゆめこ縮緬』。

ひと言で紹介するなら、“大正〜昭和初期を舞台とした幻想文学短編集”となるのでしょうが、そう簡単にまとめてしまうにはとても物足りない、濃厚な世界観を持つ8篇の物語。

抜粋部分は、本書の冒頭に収録された「文月の使者」から。

“生者”と“死者”、“日常”と“非日常”、“現実”と“幻”が混在し、日常を追っていたはずが、いつのまにかその舞台は異界へとすり替わっている。いったいどこが境界線だったのか、いや、境界というものがあったのかどうか……それすら曖昧で。

匂やかな毒気にあてられ、幻想世界に酔う。でも、意識のとある1点だけはクリアに澄んでいて、そんな自分を見つめている。どこか、醒めた意識で。

薄靄うすもやに取り巻かれながらあてどなく歩き、気づかぬうちに“そちら”と“こちら”を行き来している。そのどちらに対する明確な意識もなく、ただぼんやりと。

特徴的な、あまり開いていない唇から紡がれる言葉の羅列のような(伝わるでしょうか、このニュアンス)淡々とした抑揚のない文体。にも関わらず、“玲瓏れいろうたる”と表現されるに値するその文体は、奇妙に癖になる。その毒で、理性が霞む。

なんだか取り留めもないけれど、本作を読んでいる間の感覚を表現するとしたら、そんな感じ。

そして、この物語の舞台設定を、より強固に補完するのが其処此処に登場する装いの描写。その幻想的な作品世界を、脳内にー古いフィルムを観ているような、エッジが曖昧で霞んだようなー映像として浮かび上がらせる。

白地の浴衣を纏い、髪を櫛巻(根元を元結で結えず、櫛に髪を巻きつけて髷を作る髪型のこと。ですが、ここでは大正〜昭和初期という時代からしても作中の雰囲気からしても、洗い髪をただ櫛で巻いただけという程度のものかも)にした女の、顔の作りなどははぼやけて判然としないのに、その足元だけが妙にくっきりとリアル。

その中でふと意識に引っかかるのは、男物のような黒の鼻緒。

ひんやり首筋が冷えるような湿度、ぞわりと肌を撫でる違和感……

じわじわと、そんな感覚に囚われながら読み進めるうちに、作中の幻想世界に漂う蠱惑こわく的な毒にすっかり酩酊している。

まるで、少量で酔えるアルコール度数の高い芳醇なお酒のような。

熱帯夜の一服の清涼剤というには少々濃すぎるかもしれませんし、悪酔いする可能性がないでもないけれど、もしかしたら、寝苦しい夏の夜に一瞬の涼を届けてくれる……かもしれません。

今宵の一冊より
〜明石縮〜

蝉の翅にも例えられる、しなやかで繊細な透け感と、シャリッとした爽やかな素材感が特徴的な夏織物、明石縮。

その発祥は、江戸時代初期の播州明石。船大工の娘・お菊が、薄く透ける鉋屑かんなくずを見てヒントを得、考案されたという逸話があります。

現代で私たちが手にすることができるのは、その後京都西陣で織られた時代を経て、明治時代に、新潟県十日町市において復刻、改良された「十日町明石ちぢみ」。かの竹久夢二が描いたポスターによって世の女性たちの憧れの的となり、本作の舞台でもある大正〜昭和初期において絶大な人気を誇り、一世を風靡しました。

抜粋した部分において、ただアイテム名として登場するだけではありますが、時代背景的にも、この物語の世界観を決定付ける重要な小道具としても、まさにこれしかない!といったセレクトである気がします。

薄浅葱と象牙の涼やかな配色で横段状の幾何学柄が織り出された明石縮に、臈纈染めで雷が染められた竪絽の名古屋帯を合わせて。

薄色の着物に白っぽい帯など、どうしても薄色、淡色の装いが多くなりがちなこの時期の装いですが、こういったインパクトのある帯を効かせることで、夏陽にも夜の照明にも映える、印象的な着こなしに。

夏の風物詩「怪談」がテーマのイベントや納涼歌舞伎など、こんな装いで出かけたくなる夏ならではのシーンはたくさんあります。会う方とも着物談義が弾みそうな、物語を感じるコーディネートです。

その底に青を感じさせる黒は、夏の夜のイメージ。

小物:スタイリスト私物

その底に青を感じさせる黒は、夏の夜のイメージ。帯留には、閃光を背に夜空を翔ける龍を。

夏ものの生産量が落ちるとともに、夏向けの生地も当然織られなくなるため、今では見かけることが少なくなった竪絽たてろの生地。縦に走るランダムな絽目が独特のリズム感を生み、より涼やかな印象を受けます。

しなやかで独特のハリがある明石縮は、柔らかものである紗や絽ほど身体にかかってこないため、肌との間に空気の層ができ涼しく快適に着ていられます。

それでいて麻ほどの堅さがないので、柄行きや帯合わせ次第では茶席などセミフォーマルな席にも。

この柄はどちらかというとカジュアル寄りなので、きちんとした茶席には向きませんが(お稽古などには問題ないかと)、無地感覚のものであれば縫い紋を入れて幅広く活用することも可能です。

2020.07.05

よみもの

“蝉の翅”と称される夏の絹、”明石ちぢみ”の繊細さ 「つむぎみち」 vol.5

季節のコーディネート
〜夏ごろも:小千谷縮〜

先程の明石縮のような、夏ならではの透ける着物。

その繊細な美しさは憧れでもあり、また見る人の目にも涼をもたらしてくれる。これぞ薄物、夏の醍醐味。

着たい気持ちはやまやまなのですが……が、しかし。

このところの猛暑では、なかなか絹物に手がのびない!そんな気持ちも、よくわかります。実際私も、昨夏はほとんど麻か浴衣で過ごしました(絹の着物を着たのは1回くらいだったような……)。

やっぱり、麻の着物は涼しい。

生地と肌との間に風が通る、ハリがあってひんやりとした麻特有の質感。とは言え暑ければ当然汗はかくのですが、汗をかいても、その優れた速乾性と放湿性により着用中の不快感が格段に軽減されます。

絹物より、脱いだ後のお手入れがしやすいのも嬉しいところですよね。

少し苦みのある大人っぽいビタミンカラーが夏らしい、縦ぼかしの小千谷縮。細縞のようなかすれが爽やかで、暖色系の配色ながら涼を感じさせます。

浴衣感覚で半幅帯を合わせた、よりカジュアルな着こなしも楽しめそうですが、ここでは夏紬や浴衣にも合わせられて重宝しそうなナチュラルな生成り地の麻の名古屋帯を。

シルエットで描かれた葦と蛇籠の濃色が後ろ姿をきりっと引き締め、甘さと苦みのバランスが程良いコーディネートに。

例えば日中のお出かけの後、そのまま夜に浴衣での集まりに合流するなど、夏着物ではちょっときちんとしすぎかな……?と思うようなシーンにも、さほど違和感なく馴染んでくれるラフな雰囲気が魅力です。

墨黒でさらりと描かれた葦のシルエット。

小物:スタイリスト私物

墨黒でさらりと描かれた葦のシルエットに、筏を思わせる鼈甲の帯留を添え水辺の景色をイメージして。

帯揚げも麻素材にすると、布が重なる部分だけにより涼しい。

長襦袢、伊達締め、足袋なども麻で揃えておくと、着用後にまるっと洗えて乾きも早いので、次も気持ちよく着られます。

2023.06.17

よみもの

”麻”の着物で夏を存分に楽しむ「大久保信子さんのきもの練習帖」vol.2

縒りのかかった糸で織られた独特の風合いが、見た目にも涼感を感じさせる縮織物。

麻、特に縮のものは、柔らかものよりはどうしても嵩張った感じになりますので、それが苦手というかたもいらっしゃいますね。ですが、そこはもう素材の特性として仕方がない部分。

より着姿をすっきり見せたいなら、縦の流れを強調する柄や濃色を選ぶなど、まずは色柄に注意。その上で、袷よりも少しだけ身幅を狭くしたり広衿ではなく撥衿にしたりするなど、仕立てを工夫するのも一つの方法です。

2020.06.18

よみもの

真夏のMYベストは、小千谷縮! 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.6

2020.08.20

よみもの

洋服感覚で着る”小千谷ちぢみ”の新しい楽しみ 「つむぎみち」 vol.8

今宵のもう一冊
『妖恋』

皆川博子『妖恋ー螢沢ー』PHP文芸文庫

皆川博子『妖恋ー螢沢ー』PHP文芸文庫

 彼は、十二の年に、神田多町の下駄屋に奉公に出された。同じころに、お美乃は母親の得意先である置き屋の下働きに奉公することになった。
 どちらも十年の年季奉公であった。年季が明けるまでは、身の自由がない。
 下駄屋なら手に職がつくから、せい出してつとめて、いずれは小さい店をもつ、と、彼はお美乃に言った。
 下駄をつくれるようになるのかい。
 そうさ。
 あたい、ぽっくり下駄がほしいな。
 お美乃は、足のあとが黒く残り、前のすりへった下駄を履いていた。
 つくってやるさ。
 朱塗りで蒔絵のだよ。
 金蒔絵で、鼻緒も赤いのをつくってやる。
 おれのおかみさんになったら、と、彼は言った。いつだって新しい下駄を履けるぜ。
 彼が言うと、お美乃は、くすくす笑い、彼の人差指をにぎった。彼はどぎまぎした。

皆川博子『妖恋ー螢沢ー』PHP文芸文庫

今宵のもう一冊は、同著者の『妖恋ようれん』。

こちらも、妖しく、物哀しくも美しい7篇の物語が収められた短編集です。

江戸を舞台に、その四季と人々の生きる姿とが混ざり合い、虚と実の狭間で色鮮やかに浮かび上がったり霞んだり溶け合ったりしながら紡がれる物語。捉えどころなく幻想的で、それなのに、胸のいちばん深い部分を抉られるような痛みだけはくっきりと鮮明で。

紗幕越しの美しい映像を見ているようでもあり、薄靄うすもやに覆われた曖昧な視界の中、香りだけがクリアに漂う異界を彷徨うようでもあり……

まず心惹かれるのは、「心中薄雪桜」「十六夜鏡」「夕紅葉」「濡れ千鳥」など、風情あるタイトル群(そのページデザインもとても素敵なのですが)。

ご紹介したのは、その中の「螢沢」から。

哀しいことに、最初に抜粋したほのぼのと甘やかな時間はあの一瞬のみでした。大人になり厳しい現実を見た彼らのその後の物語は、果たして夢かうつつか……

 そのとき、小さい足音が、ほのかな灯とともに走り寄り、
「姉様、遅くなりました」
 女の子の浴衣の袖は、螢籠。かまちに上がり、さっとうちふる袂から、あふれ乱れて、螢の群れの青い光が座敷に満ちた。

皆川博子『妖恋ー螢沢ー』PHP文芸文庫

白地に鮮やかな紫の笹の葉が表された絞りのゆかた。大きな幾何学柄のようにも思える大胆さが印象的。どこかアンティークの存在感を思わせるような、個性的な着こなしが楽しめそうです。

笹の葉の周囲に、ほわりほわりと光りながら舞い飛ぶ螢の群れを見るような。

水玉の帯が、そんな幻想的な景色を思わせる。
魔除けの色でもある紅をさりげなく手元と足元に効かせて、コーディネートのアクセントに。

なんとも妖しく幻想的なシーンに寄せて。

小物:スタイリスト私物

ひと粒の水飛沫のような、水晶の帯飾り。

夜目に映える白地の浴衣に、あえての白地の帯を。紗博多の帯の涼やかな質感と柄に使われた深い紫や澄んだ水色を際立たせる組み合わせです。

(実際に袂にこの数の螢を入れることを想像すると、ちょっとぞわっとしなくもないけれど)リアルな映像が、ひんやりと冷たい水気を含んだ空気の流れとともに脳裏に浮かぶような、なんとも妖しく幻想的なシーンに寄せて。

2021.07.29

まなぶ

浴衣の着こなし 〜半衿とか名古屋帯とか足袋とか〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三夜

2022.07.12

まなぶ

毎年新調! 祇園祭・長刀鉾保存会の「浴衣」、その図案の魅力とは。

下駄の話

「螢沢」で描写されているように、この時代の庶民は素足が普通(だから、家に上がる際には“足を濯ぐ”という作業がまず必要。時代劇などで、訪れたお客さまにたらいに入れたお水やお湯を運んでくるシーンがありますよね)。

足袋を履けるのは、武家や裕福な商人など上流階級に限られていました。

素足で下駄を履く場合、どうしても汗や汚れ、皮脂などにより天(足裏が当たる面)に足の跡が残ってしまいます。たとえ毎回しっかり拭いたとしても跡を完全に防ぐのは難しいので、天をコーティングされていない白木の下駄は、なるべく素足で履くのは避けた方が無難(同じ理由で、天に畳が貼られた下駄も。ただ、畳も白木も素足に気持ち良いのは事実なので、そこはもう、諦めて開き直るか……悩ましいところですね)。

跡を気にせず素足で履きたい場合は、先程のコーディネートで合わせたような塗りの下駄か、汗の染み込みにくい素材(ゴマ竹や水草など)の表を貼った下駄を選ぶと安心です。履いたあと、汚れや汗を拭き取りしっかり乾燥させておくと綺麗な状態が長く保てます。

ちなみに現代では、白木でも表面がコーティングされているものもありますので、スタイリング的に白木が良く、素足でも履きたい場合はそういったものを選ぶと良いですね。

また、下駄は浴衣や夏専用と思っていらっしゃる方もいるようですが、そんなことはなく通年で着用可能。下駄は洋装で言うならスニーカーのようなカジュアルなアイテムなので、きちんとした席には向きませんが、小紋や紬、木綿などの普段着には季節によらず自由に合わせることができます。

2022.06.18

よみもの

お気に入りの下駄を見つけて、一年中楽しもう! 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.54

天や台、鼻緒に、夏素材の代表的なパナマや麻、ゴマ竹、水草、絽などが用いられているかどうかによって夏向けかどうかを判断しますが、そういった素材のものは露出の多いミュールやサンダルといったアイテムの感覚。白木や焼き桐、杉、塗り、鎌倉彫り、津軽塗りなどの一般的なものは、夏も冬も使えるスニーカーと考えるとわかりやすいかもしれません。

台の形もいろいろあり、どれも基本的にカジュアルであることには変わりないのですが、草履と同じ形状をした船底形に比べ、駒下駄など二本歯の形状の方がよりラフな印象になります。船底形は、底が平らな分歯の形状のものより歩きやすいので、慣れない方は船底形を選ぶと良いでしょう。

基本がカジュアルな装いである浴衣は、足袋を履くかどうかは当人の好みによる部分が大きいと思うのですが(エアコンによる冷え対策にもなりますし、鼻緒ズレを防ぐ意味も)、きちんとした雰囲気に仕上げたいという場合、足袋を履くのはとても有効。

特によそのお宅へお邪魔する可能性がある場合には、履いておいた方が安心かと思います。洋装であっても、よそのお宅にお邪魔する場合、なるべく素足は避けますよね。汗や皮脂で汚すことのないよう足袋を履いておくか、もしくは必要になった場合にすぐ履けるように、バッグに一足忍ばせておくと良いかもしれません。ソックスの形状でするっと履きやすい足袋も、現代ではかなりバリエーションが増えていますし。

ちなみに草履はと言えば、洋装で言うパンプスのような立ち位置。なので、基本的に足袋とセットになります。浴衣に素足&下駄ではなく、足袋&草履を合わせると、よりきちんとした雰囲気に。下駄と同じく、パナマや麻、ホースヘア、絽綴などといった夏向けの素材もありますが、別珍などの暖かい印象の素材以外は基本的に通年で使えます。

2023.10.04

よみもの

草履の革命児 華麗なるカレンブロッソの秘密 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.19

季節のコーディネート
〜七夕の宵に〜

若竹色の万筋の江戸小紋に、伸びやかな竹が染められた絹芭蕉の名古屋帯を合わせて、七夕のお茶会に。

合わせやすい柔らかな白ベースで、すっきりと上品でありつつ、しかし無難には陥らない力強さとインパクトのある柄の、この帯。

ここでご紹介したように無地感覚の着物に主役として合わせることも、柄の着物に対し無地感覚の帯として合わせて引き算の効果を狙うことも、アンティークの着物に対し負けないだけの同じ強さでぶつけることもできる、そんな全方位に力を発揮してくれる万能帯と言えそうです。

上品さは失わず個性的な仕上がりに。

小物:スタイリスト私物

深い千載緑ちとせみどりの冠組みの帯締めは、コーディネートをきりりと引き締め、きちんとした印象をより高めてくれる正統派の小物。

帯揚げには、銀鼠と焦茶の染め分けを。左右振り分けにして使うと、半分の濃色が胸元にアクセントをもたらし上品さは失わず個性的な仕上がりに。

笹の葉が、ひらりと一枚描かれた扇子を胸元に。

小物:スタイリスト私物

友人との集まりなど遊びの席なら、小さな短冊みたいな蒔絵の帯留を添えて。揺れるベビーパールが、ひと雫の夜露のようです。

笹の葉が、ひらりと一枚描かれた扇子を胸元に。

茶席用の装いなら迷いなく草履ですが、こちらのコーディネートなら出かける先によって草履でも下駄でも似合います。足袋を履いて、白木の駒下駄や千両と呼ばれるのめりの下駄、畳表なども似合いそう。

今回取り上げた作品は、物語の特性上、あらすじなどに詳しくは触れられませんでしたが、やはり衣裳や時代背景はその世界観を作る道具立てとして、とても重要。

特にこの著者は絵画的というか映像的というか……不思議な色合いを纏う文体なので、その細かい描写により、その世界がくっきりと“観える”。

そして、この著者の独特のリズムを湛えた文体が呼び起こす感覚が、実はもう1つあって。

深みのある良い声のお坊さまの読経とか、声明しょうみょうとか。あの、時空ごと揺蕩うようなリズム、響きに身を委ね、違う空間に意識を連れて行かれるような(眠りに誘われてるだけという説もありますが。笑)、一瞬、魂が生身から離れて浮遊するような……そんな錯覚すら覚えることも。

あの感覚に、ちょっと似ている気がします。

さて次回、第三十九夜は。

鴎、燈籠、煙草盆……と言えば?

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