着物・和・京都に関する情報ならきものと

繊細で慎み深い、六条御息所 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.6

繊細で慎み深い、六条御息所 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.6

記事を共有する

彼女を表すモチーフは蜘蛛の巣や髑髏が多く使われ、モノトーンやおどろおどろしい色合わせをされがち。でもでも、原文を読んでみると全然違うんですよね。

2024.05.24

まなぶ

高貴な正妻、葵の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.5

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

「源氏物語の女君がきものを着たなら」前回は葵の上でしたが、今回はその葵の上を呪い殺してしまった貴婦人『六条御息所ろくじょうのみやすんどころです!

源氏物語の驚くべきところって……

やはり書き手が女性だからでしょうか、個性を消す化粧や髪型と、表に姿を見せない環境にあった時代に、女君たちがみなとても個性豊かに描かれているところですよね。

それゆえに、目立つエピソードをもとにイメージが固定してしまっている部分もあるように思います。

前回の葵の上もその一人ですが、六条御息所に至っては、強い想いが”生き霊”という最悪な形で現れてしまったがために、ホラー系、怖くてネガティブなイメージの女性像が読者の脳内を支配してしまったような気がします。後年のさまざまな戯曲のネタにおいても、もちろんその方向性がクローズアップされています。

執着が強く嫉妬深い、めんどくさい愛人。

彼女を表すモチーフは蜘蛛の巣や髑髏(着物では実は縁起の良い柄ですが)が多く使われ、モノトーンやおどろおどろしい色合わせをされがち。

彼女を表すモチーフは蜘蛛の巣や髑髏

でもでも、原文を読んでみるとやっぱり全然違うんですよね。

葵の上のイメージは光源氏側の勝手な決めつけや評価でしたが、六条御息所は「呪い殺す」というインパクト大の事件のせいで、実は何度も細やかに描かれている、彼女の性格や特徴が忘れ去られているというか……

『源氏物語』から分かる六条御息所は、賢く繊細で世間の目を非常に気にする”慎み深い未亡人”です。

故宮のいとやむごとなく思し 時めかしたまひしものを 軽々しうおしなべたるさまに もてなすなるが、いとほしきこと。

故宮のいとやむごとなく思し 時めかしたまひしものを 軽々しうおしなべたるさまに もてなすなるが、いとほしきこと。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

 (桐壺院)「私の弟の東宮が非常に愛していた人を、おまえが何でもなく扱うのを見て、私はかわいそうでならない。斎宮なども姪でなく自分の内親王と同じように思っているのだから、どちらからいっても御息所を尊重すべきである。多情な心から、熱したり、冷たくなったりしてみせて は世間がおまえを批難する」

先の東宮妃という身分の高さ、兼ね備えた美貌と教養、知性と気品……

正統派の着物雑誌で表紙を飾るような訪問着姿の女性像が思い浮かびますね。

理性的で優れた女性だからこそ、年下のプレイボーイと恋仲になってしまった自分を客観的に見て恥ずかしく思っているし、そんな男を軽くあしらうこともできずのめり込んでしまっている想いを表に出さないように必死です。

2023.08.24

まなぶ

実は縁起がいい!?着物の“怖い“柄 「3兄弟母、時々きもの」vol.22

かたや光源氏の方は、最初は憧れのマドンナを手に入れたくて一生懸命だったのでしょうが、手に入ってしまえば一緒にいても背伸びしてキチンとしたお相手を演じなくてはならず、なんだかリラックスできない……遊ぶ相手なら身分が低くて気を使わない楽な女がいいなぁ〜なんて思いはじめている……

賢い女性なので、そういう彼の心変わりにも薄々気づいてしまうけれど、可愛く嫉妬して見せるなんてプライドが許せないし、バッサリ断ち切るのも世間体が悪い。

モヤモヤをうまく排出できずに抱え込んでしまった結果、内に溜まった恨みつらみが生き霊となって本人の知らないところで悪さをしてしまった。

そんなところではないでしょうか。そこまで病むほどストレスを抱え込むとは可哀想……

無意識の内に自我が体を抜け出し、生き霊となって葵の上を取り殺してしまった。六条御息所がそのことに気づいたのは、なぜか体に染み付いてどうしても取れない芥子の香り

芥子は出産や病気平癒、そして物怪を祓うための祈祷に使われていました。香りで自分のしでかしたことを察するなんて演出を思いついた紫式部、恐ろしい人……

あやしう、我にもあらぬ御心地を 思しつづくるに、御衣などもんただ芥子の香に 染み返りたるあやしさに御ゆする参り、御衣着替へなどしたまひて、試みたまへど なほ同じやうにのみあれば⋯

あやしう、我にもあらぬ御心地を 思しつづくるに、御衣などもんただ芥子の香に 染み返りたるあやしさに御ゆする参り、御衣着替へなどしたまひて、試みたまへど なほ同じやうにのみあれば⋯⋯
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

着た衣服などにも祈りの僧が焚く護摩の 香が沁んでいた。不思議に思って、髪を洗ったり、着物を変えたりしても、やはり改まらない。

そんな彼女には、落ち着いた色味ながら上質さが分かる付け下げに、芥子の花の存在感が重めな刺繍の帯を合わせてみました。

もしかすると六条御息所のキャラ設定には蜻蛉日記の作者、道綱母みちつなのははなんかも意識されていたのかもしれないですね。道綱母はドロドロした想いを日記にしたためることでストレス発散できて生き霊にまではならずに済んだのかも?なんて……

2021.07.16

よみもの

夏は、目にも心にも〝ひんやり〟を 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.8

葵の上を呪うエピソードばかりが目立ってしまう六条御息所ですが、源氏物語において本当の見せ場だと思っているのは、失意のなか、娘である斎宮(後の秋好中宮あきこのむちゅうぐう)に付き添って伊勢へ下向することになり、野の宮に駆けつけた光源氏と月明かりのもと、静かに別れを惜しむシーンです。

月も入りぬるにや、あはれなる空を眺めつつ 怨みきこえたまふに、ここら思ひ集めたまへる つらさも消えぬべし。やうやう、「今は」と思ひ離れたまへるに、「さればよ」と、なかなか心動きて、思し乱る。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

もう月が落ちたのか、寂しい色に変わっている 空をながめながら、自身の真実の認められないことで歎く源氏を見ては、御息所の積もり積もった恨めしさも消えていくことであろうと見えた。ようやくあきらめができた今になって、また動揺することになってはならない危険な会見を避けていたのであるが、予感したとおりに御息所の心はかき乱されてしまった。

特選摺り友禅訪問着 「洛中春秋草花図」
特選京友禅袋帯 銀通しちりめん地 「月下美人」

光源氏の心変わり、そして自分が正妻を呪い殺したことを薄々察して距離を置かれたことも理解して絶望した時期なので、「女」としての艶やかさを抑え、モノトーンで風情ある洛中春秋草花図が細やかに描き込まれた大人の訪問着を選んでみました。

月光のもと静かに佇む美しさを、幽玄な月下美人の柄の染め帯で表現。

彼女自身はとても華やかな色柄の似合うゴージャスな美女だったのでしょうが、そんな人が控えめな色の着物に薄化粧で静かに涙していたら……いっそう美しさが引き立ちそうです。

正妻を亡くした光源氏が、身分も高く桐壺院からの覚えもめでたく第二夫人と見なされていた六条御息所を正妻に格上げせず、むしろ遠ざけた意味を世間がどう見るか、彼女の居た堪れなさを想像するだけで苦しくなりますね。

噂好きの都人、狭い世間のなかでこの先も生きていかなければならない六条御息所にとって、光源氏と別れ都を離れる決断は賢明だったと思います。

理想的な女性が若い男に狂わされて堕ちていく――残酷ながら、物語の題材としては秀逸ですね。

それを下世話なゴシップに貶めず、最終的には「野の宮の別れ」にて幽玄の美を感じさせる締めくくりとした紫式部の表現力にはあらためて脱帽です

ジメジメする梅雨の時期、色柄をちょっと控えめにすることで涼しげな印象になりそうな”御息所コーデ”、いかがでしょう?

ITEM

記事に登場するアイテム

特選摺り友禅訪問着 「洛中春秋草花図」

特選京友禅袋帯 銀通しちりめん地 「月下美人」

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS注目のキーワード

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する