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紫の上と並ぶ”春の姫君”、玉鬘 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.4

紫の上と並ぶ”春の姫君”、玉鬘 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.4

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玉鬘は、父・頭中将の持つ気品や優雅さを受け継いだ「はっきり、くっきりした」美人さん。現代の着物を選ぶのなら……?

2024.03.24

まなぶ

親しみやすく可愛らしい、朧月夜の君 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.3

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

源氏物語の女君たちの装いや描写から着物姿を想像するシリーズ、今月は……

紫の上と並んでもう一人の”春の姫君”とも言えそうな人、玉鬘たまかづら です。

光源氏が愛した身分の低い女性・夕顔が、光源氏と出会う前に頭中将との間になしていた娘が、玉鬘。光源氏にとって頭中将は、恋においても政治においても生涯のライバルであり良き友でもある人として有名です。

夕顔は、執念の強い光源氏の恋人・六条御息所の生き霊にとり殺されてしまい、その娘・玉鬘は行方知れずに。

年月を経て……

筑紫の国でひっそりと暮らしていた玉鬘一行が上京してくるところへ、もともと夕顔の女房であり、主人の死後は光源氏に仕えていた右近という人が遭遇することから、玉鬘は光源氏の元に引き取られることになります

せっかくなので、源氏物語では珍しい旅姿を見てみましょう

うつくしげなるうしろでの いといたうやつれて、卯月の単衣めくものに 着こめたまへる髪の透影

うつくしげなるうしろでの いといたうやつれて、卯月の単衣めくものに 着こめたまへる髪の透影
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

平安時代の旅姿は、壺装束。右近が再会したのは4月ごろ。上に被いた単衣の中に黒髪が透けて見えたそうです。

質素な姿をしていても見劣りしない美しさが滲み出ていたという、玉鬘。

現代の着物姿でこの旅姿をあらわすのなら、春らしい色柄を和洋ミックスで着こなした、足首見せの軽やかなお出かけコーデなどでいかがでしょう?

さて……

愛した人の忘れ形見である玉鬘の美しさと華やかさにクラクラしながらも、光源氏は、実父である頭中将に伝える術を探りつつ「婿選び」に大奔走

母君は、ただいと若やかにおほどかにて やはやはとぞ、たをやぎたまへりし。これは気高く、もてなしなど恥づかしきに よしめきたまへり。

母君は、ただいと若やかにおほどかにて やはやはとぞ、たをやぎたまへりし。これは気高く、もてなしなど恥づかしきに よしめきたまへり。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

母・夕顔の「おっとり、なよなよとした」雰囲気とは違い、玉鬘は、父・頭中将の持つ気品や優雅さを受け継いだ「はっきり、くっきりした」美人さん

文中でも、「上品で可愛らしく、気立てもおっとりして優雅」とベタ褒めです。

そんな彼女にはやはり、鮮やかではっきりした色柄が似合うようですね。

「玉鬘と言えば」で最も有名なのが、光源氏が女君たちに正月の装束を贈る「衣配り」において玉鬘に選んだ「山吹の細長」

曇りなく赤きに、山吹の細長
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
【染色美術 染の北川】 傑作京友禅小紋振袖「百合壮麗」

「山吹襲ね」は、イエローオレンジのグラデーションに葉のグリーンが差し色に効いた、目も覚めるような華やかさをもつ「襲の色目」。

別の日、光源氏の息子・夕霧は、野分(台風)のお見舞いに訪れた際に紫の上同様に玉鬘のことも垣間見て……

八重の山吹の花が咲き乱れた盛りに露を置いた夕映のようだ

とその印象を伝えています。この日に山吹色を着ていたかどうかはわかりませんが、やっぱり山吹のイメージなんですね。

なんとこのとき玉鬘は、養父・光源氏から絶賛口説かれ中。

玉鬘が光源氏の実子だと思っていた夕霧はドン引き……したわけですが、まぁ、「実父でさえも長年会わなかったらときめいてしまうんだなぁ」なんて夕霧が納得するほどに、昔の少女漫画よろしくぶぁっと花を背負ったような美少女だったわけです。

現代の着物を選ぶのなら色はもちろん山吹色ですが、古典柄よりも現代柄、たとえば洋花が散りばめられた振袖が似合いそう。もちろん小物はグリーンでキリリと引き締めます。

そしてそして源氏物語では、けっこうたくさんの見どころを玉鬘に用意しています。

そのひとつが、熱心に求婚していた兵部卿の宮ひょうぶきょうのみやが「蛍の宮」と呼ばれることになったエピソード

光源氏は兵部卿の宮に玉鬘の美しさを見せようと、御簾を隔てた近い場所で引き合わせ、タイミングを見て袖に隠しておいた蛍を放つのです。

乱れ飛ぶ蛍の光のなか、玉鬘の美しい横顔をくっきりと見てしまった兵部卿の宮は、ますます恋心を募らせていきます(……が結局、宮仕えを決めた後、髭黒の大将に娶られることになるのですが……)。

この日の玉鬘の服装は書かれていません。

でも、蛍の光に照らされた美しい姿を描きたかったので……

撫子の細長に このころの花の色なる御小袿 あはひ気近う今めきて

撫子の細長に このころの花の色なる御小袿 あはひ気近う今めきて
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

季節は遡りますが、「撫子の細長」に「卯の花襲」の小袿を着ていた姿でイメージしてみました。

こちらは山吹とはまた違う淡いトーンの愛らしい雰囲気ですが、撫子は夏に真紅の花をつけるそう。玉鬘はその後にも「撫子」で表されることがあり、やはりはっきりとした色が似合う人なのだとわかります。

……ということで、撫子と卯の花は春のかさねですが、ここは初夏のシーンとしてさっぱりとした単衣の着物で表現してみました。ここでも差し色は緑が効いていますね。

玉鬘の着こなしはどれも若々しく可愛らしさが前面に出るものが多そうですが、大人が着物でやってみるのなら、

・はっきりした色の差し色で引き締める
・シャリ感がある生地を選ぶ
・柄を控えめにする

などの工夫をすれば、可愛くなりすぎずスッキリとまとまりそう!

”春の姫君”とも呼べそうな玉鬘の概念コーデ、これからの季節にぜひ参考にしてみてください!

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【染色美術 染の北川】 傑作京友禅小紋振袖「百合壮麗」

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