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伊藤野枝、言葉で自由を求めた激動の生涯 『風よ あらしよ 劇場版』 「きもの de シネマ」vol.45

伊藤野枝、言葉で自由を求めた激動の生涯 『風よ あらしよ 劇場版』 「きもの de シネマ」vol.45

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。2月9日公開作品の3本目は、100年前の日本で女性解放運動に情熱を注いだ伊藤野枝の波乱に満ちた一生を描く『風よ あらしよ 劇場版』です。

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自由を求めた女性の悲痛なる心の叫び

ごきげんよう、椿屋です。

今回ご紹介する『風よ あらしよ 劇場版』は、2022年にNHKで放送されたドラマを再編集した作品。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

主演の伊藤野枝役は、NHK連続テレビ小説『花子とアン』で翻訳者・村岡花子に抜擢され、現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』で主人公・紫式部を演じる吉高由里子さんです。

「女は、家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだあとは子に従う」といった言葉が示すとおり、良妻賢母が女の美徳だとされた大正時代。男尊女卑の風潮が蔓延する世の中で、社会に異を唱える女性たちが現れます。

なかでも、「青鞜社」の代表的存在だった平塚らいてう(松下奈緒)が綴った「元始、女性は太陽であった」という言葉に感銘を受け、家のための結婚を拒んで上京した伊藤野枝は、女性解放運動家として知られています。

本作は、吉川英治文学賞を受賞した村山由佳先生の評伝小説『風よ あらしよ』を原作に、そんな伊藤野枝という一人の女性の短くも激しい生き様を描き出した衝撃作です。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

キャスティングとして注目すべきは、彼女の夫となるふたりの殿方です。稲垣吾郎さん演じる最初の夫であるダダイスト・辻潤は、野枝の文才を見出し、彼女の行く先に光を灯した元教師。

仮祝言の場を飛び出してきた彼女を受け止め、「俺の背中を踏み台にしてもっと先へ行け」と背中を押すのです。

そんな理解ある夫とも徐々にすれ違いが生じ、生涯のパートナーとなる無政府主義の大杉栄(永山瑛太)と出会うことで波瀾万丈の人生へと突き進んでいくことになります。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

彼もまた、先進的で視野が広く、フラットな物の見方をする男性で、喧嘩腰の野枝に対しても、気分を害することなく「教えてくれてありがとう」と己の過ちを認められる懐の深さをもっています。

命を削って想いを言葉にする彼女の支えとなる重要な人物なのです。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

残酷な世間の風に晒されながら、縁を結ぶ相手の存在によって、より高みを目指そうとする野枝の姿勢がとても興味深くもあります。

野枝と栄が目指した「ブラジルの蟻のように生きていける社会」が、100年経ったいま、彼らにはどう見えているのか……想像せずにはいられません。

身にまとうものに垣間見る思想と志向

逆風かつ荒波に抗いながら言葉を発し続けた彼女たちは、装いもまた個性的。

とくにらいてうの衣装はどれも紫をテーマカラーとし、華やかな大判の花柄やターコイズブルーといった鮮やかな差し色で、その場を明るくします。派手な組み合わせも、たおやかな身のこなしで上品に見えるから、さすがです。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

らいちょうの登場場面はどれも画面が引き締まりますが、なかでも、野枝が彼女から青鞜を譲り受けるシーンは痺れるほどに恰好良いので、ご期待くださいませ。

強靭な精神力で日本女性の地位と価値を向上させようと働きかける女性たちの意志が、身にまとう物にも浸透しているのも面白く、中でも、栄をめぐっての三つ巴(妻・野枝・愛人)の修羅場シーンでは、それぞれのキャラクターがよく反映された衣装も見逃せないポイントです。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

洋服に比べて和服では、好きな色が似合う色とは限らないといったことをよく耳にしますが、好む色には己の心の内が透けて見えるのもまた一理。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

学生時代の野枝は衿もさほど抜かず、広衿をぐっさりと着つけた胸元が少し野暮ったい印象ですが、初めて参加した青鞜社の講演会では、衿を抜いて胸元もすっきりとした着こなしで登壇します。

衣装の変化で表現できる幅の広さに、改めて感じ入っておりました。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

衣装以外の見どころといえば、やはりセンセーショナルなラストシーンは外せません。

時は、関東大震災。

理不尽極まりない暴力が、野枝と栄に襲いかかります。

朝鮮人への差別描写では、昨年大きな話題となり、第47回日本アカデミー賞にて作品賞・監督賞・脚本賞の3部門で優秀賞を受賞した『福田村事件』(2023年/太秦)を思い出さずにはいられませんでした。同作にも、重要な役どころで永山瑛太さんが出演されていますので、機会があればぜひご覧ください。

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社

雁字搦めの因習に立ち向かい、おかしいと声を上げた平塚らいてうや、彼女の言葉に感銘を受けて、自由を求める道を突き進んだ野枝のような先達たちのおかげで、我々のいまがあります。

選挙権が認められ、男女雇用機会均等法が制定されてもなお、根強く残る女性蔑視の価値観は、100年経ってやっと、「ジェンダーレス」という言葉と共に変化の兆しを見せ始めました。

……彼女らに恥じぬ日々を、懸命に生きていきたいものでございます。

2023.04.29

まなぶ

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