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とっつきにくくても、魅力を伝えたい。 講談師 七代目 一龍斎貞鏡さん(後編)

とっつきにくくても、魅力を伝えたい。 講談師 七代目 一龍斎貞鏡さん(後編)

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新・真打として邁進する講談師の七代目一龍斎貞鏡さん。前編では師匠の形見の着物から講談師の着こなし、演目と着物の関係性についてうかがいました。後編では、入門時の着物、着物での失敗談などお話しいただきます。

2024.03.04

インタビュー

師匠の遺した着物は誂えたかのようにぴったりだった― 講談師 七代目 一龍斎貞鏡さん(前編)

初めて自腹で購入した着物

大学時代に、父である八代目 一龍斎貞山の高座をみたのをきっかけに講談師を志した貞鏡さん。

”一龍斎貞鏡””女性講談師””講談”

――入門の許可が下りたとき、人間国宝であった六代目 一龍斎貞水先生のところへ挨拶に行くことになったとうかがっています。その際、師匠・貞山先生から「着物を着るように」と言われたそうですね。入門にあたり着物を誂えたりしていたのでしょうか。

「とくに誂えたりはしていませんでした。挨拶へ行くのも突然でしたので、急遽、母にお願いして着せてもらいました。着物に関してはずぶの素人でしたから。七五三以来で着たのは、成人式と大学の卒業式だけでしたので」

――では着物を着るようになったのは入門から?

「そうです。16年前はいまのような着付け動画がなかったので苦労しましたね。着付け教室へ行くお金も時間もありませんでしたし、古本屋で着付けの本を買ってきて練習して着ていました。

また、私、現代っ子の体型なんです。腕は長いし衣紋掛けのような肩でして、着物がぜんぜん似合わない。ガチガチのツンツルテン! という風情。胸の下の補強もわからないから、腰はくびれちゃうし。けれども師匠からは『ま、着てればそういう体になっていくんじゃねーの』とボソッと言われて。そこから慣れるように毎日着ましたね」

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――入門後、着物はどう揃えていったのでしょうか。

前座のころは、先輩のお姉さん方から譲っていただくことが多かったです。自分で買ったことはありませんでしたね」

――初めてご自身で購入されたのは。

「見習い前座修業が終わって二ツ目になるときですね。男物の黒紋付袴がほしいとなり、いままで貯めたお金でひと揃え買いました

――女性で「初めて自腹で購入した着物が男物」というのも講談師らしいエピソードですね。

「やはり師匠が男の人だったからでしょうか、男着物にとても憧れがあったんですよね。絶対に男仕立ての黒紋付袴を作るんだって思っていました」

講談は武士が始めた話芸

――男着物と女着物で、動きの制約などは変わらないですか。

「基本的には変わらないですね。男着物のほうが帯が細い分だけ、若干動きやすいかもしれないくらい。

講談自体、落語と比べると身振り手振りなどの所作はしないものでして。とくに、うちの師匠は余計な所作は殆どせず、張り扇をぽんっと叩いて、あとはずっと淡々と読む。たまに『なになになに〜』と本を読むような所作をするくらいです。

もともと、講談は武士が読んでいたものなので、その名残があるんでしょう。私たちが作る張り扇も九寸五分で、切腹するときの刀と同じ長さなんです。

武士ですから、おもしろおかしくやる、というよりは背筋を伸ばして凜と綺麗に読むことに重きがある。それゆえ大きく動いたりしないので、女着物でも男着物でも講談を読むにあたって違いを感じることはないです」

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「真打昇進前の1年間は半分ほどが妊娠期でしたが、講談をお聴きいただく上で余計な背景をつけたくないので、高座で『妊娠しました』と伝えるべきではないと思っていました。お腹が大きくなってきてからは女着物で女袴を着けるようにしていましたが、前に釈台があることもあって、まったく気づかれませんでしたね(笑)」

――ちなみに女性が男着物を着るときのコツはありますか。

帯は腰でしますね。私はとくに補正もしていないのですが、くびれないように腰に巻くように締めます。ただ、慣れていないとコスプレ感が漂ってしまうのが難点ですね」

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着物での失敗はまさかの忘れ物

――帯締め、帯枕、衿芯を忘れて出掛けられた日があると、SNSで拝見しました。着物にまつわる失敗談などうかがってもいいですか。

「その日はボロボロでしたね。帯締めは腰紐、帯枕はペットボトルの中身を飲み干して代用しました。衿芯にはお弁当の箱の蓋の厚紙を入れたかな。

それよりも、帯を忘れてしまったことがありましてね。我ながら驚きました。

仕方ないので風呂敷を対角線上に畳んで帯の幅に整えて、それを手でお腹に当てながら背中が見えないよう正面を向いて、蟹歩きで高座に上がりました(笑)」

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「いかに”ヤバイ”という顔をしないか……帯が風呂敷で蟹歩きでも、”舞台の出、捌けはこういうものです”という顔でいくことが大事ですね(笑)。着物を忘れると、もうどうしようもないですけれどね。

釈台を忘れたときには、落語のように演者の前には何も置かず、正座している自分の太ももを張り扇で叩きながら申し上げたこともありました。もうジタバタしても仕方がないからね。

あくまで着物も講談も美しいものだからね、美しくいたいですよね

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着物と伝統芸能のハードル

――プライベートで着物を着ることはありますか。

「子供の入園式には着ました。節目では着ていますね。入園式は子供たちが主役ですから、あまり目立ちすぎるのもいけないので、わりと地味な着物を選んだかな。それ以外だと、夏祭りに子供といくときに浴衣を着るくらいでしょうか。

そもそも着物は日本の民族衣装なのに、講談師を志すまでの22年間、まったく触れずに生きていたことが恥ずかしいです。いまではこんなに好きになってしまって。最初はとっつきにくい印象がありますし、着物警察もいるので及び腰になってしまうのですけどね」

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――着物警察に遭われたんですか。

「このあいだのことですね。七五三の反物でとても素敵なものをみつけたんです。

目の覚めるような青に羽子板や独楽などお正月遊びの絵が描いてあるものでした。どうしても着たくなってしまい仕立てたんです。

私たち芸人は高座が照明で暑いのもあって、仕立てるときは基本的に単衣にします。お正月柄ではありましたが、その反物も単衣にしまして。そしたらまさかの着物警察に止められてしまいました。『あらあなた、お正月にこんな単衣なんて寒々しいわよ』と。

私はしないようにしよう、と思いましたね。その人がどんなふうに思い、どんな考えがあって着ているのかわからないですし、好んで着たい着物を自分の人生のなかで着ているんだから、人がとやかくいうことではない

仕事でも着物でも子育てでも、すべてに通じることです。

子育てなら、その子の親が一生懸命考えてしていることに外野が口を出すのは野暮の極みだな、と。人の気持ちは計り知れないからね。

そういうことが着物のとっつきにくさでもあるかな。実際に『着物ってとっつきにくい』と思う人のほうが多いですよね

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我々、講談の世界もそうなんです。やはりとっつきにくいと思われている。聞いてもわからないんじゃないか、とか、聞いてみたけどやはり難しい、とかね。着物も同じで、着てみたけどが身体中が疲れてつらいという方がいるのも事実。

……それでも、講談でも着物でも、試行錯誤しながら魅力を伝えていきたいと強く思います。どちらも伝統文化ですので、志を一つにしてね」

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一龍斎貞鏡ひとり会

一龍斎貞鏡ひとり会

5月4日(土) 13時開演
前売3,800円、当日4,000円
千駄ヶ谷・国立能楽堂
ご予約 yoyaku@mixyose.jp
(オフィスエムズ)

一龍斎貞鏡 真打昇進特別公演

一龍斎貞鏡 真打昇進特別公演

6月19日(水)  19時開演
銀座・博品館劇場
3800円
ご予約 0570-06-6600(夢空間)

取材・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満

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