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『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 SOMPO美術館 「きものでミュージアム」vol.29

『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 SOMPO美術館 「きものでミュージアム」vol.29

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《ひまわり》《アイリス》をはじめゴッホの静物が25点がSOMPO美術館に集結。静物画を描くことで独自のスタイルを身に着けたゴッホを17〜20世紀の静物画の流れのなかに位置づけ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌなどとともに紹介されています。

2023.11.17

よみもの

『大正の夢 秘密の銘仙ものがたり展』 弥生美術館 「きものでミュージアム」vol.28

ゴッホと静物画

今回は、SOMPO美術館で開催中の『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品および観覧風景の写真につきまして、プレス内覧会で許可を得て撮影したもので、美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。

SOMPO美術館エントランス

SOMPO美術館エントランス

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)が画家として活動したのは27歳から37歳の10年あまり。

残した油彩画作品約850点のうち、風景画は約400点、人物画は約250点、静物は約190点です。

今回の出展作品全69点のうち、25点がゴッホによる油彩画。17世紀から20世紀の静物画の流れのなかで、ゴッホを位置づけ、ドラクロワ、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌ、ヴラマンク、シャガールなど著名な画家たちの静物画とともに紹介しています。

静物画だけの展覧会は静かすぎるのでは……という心配はご無用。バラエティ豊かな作品が並び、大変みごたえがありますよ。

展示室エントランス

歴史から見た静物画

「静物画」とは、花や日用品、楽器、狩りの獲物、食料など生命を持たず動かないものを描いた西洋絵画の分野を指します。西洋美術史上、17世紀に静物画がひとつの分野として確立したといわれています。

ドラクロワとラトゥール、ルノワール展示風景

左からドラクロワ(1点)ラトゥール(2点)とルノワール(2点)が並ぶ展示風景

もともと「歴史画」と「宗教画」が高尚な分野とされ、静物画は低い位置に置かれていましたが、17世紀以降は、手に入れやすくわかりやすい静物画の人気が高まりました。

画家にとって静物画は、対象を緻密に描くという点で力量が試される分野でした。人物を描く画家を目指していたゴッホは、はじめ静物画を油彩の技術を磨くための「習作」とみなしていたそう。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《麦わら帽のある静物》

フィンセント・ファン・ゴッホ 《麦わら帽のある静物》1881年11月下旬~ 12月中旬 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

《麦わら帽のある静物》は、ゴッホ最初期の油彩の静物

帽子、パイプ、白い布、陶器の瓶、赤いポット、緑がかった陶器の甕、木のテーブルなど、色・形・質感もさまざまなものが描かれており、これらを描き分けるのには高い技術が必要とされます。

フィンセント・ファン・ゴッホ《りんごとカボチャのある静物》

左:フィンセント・ファン・ゴッホ《野菜と果物のある静物》1884年秋 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム (フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation) 右:フィンセント・ファン・ゴッホ《りんごとカボチャのある静物》 1885年9月 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

こちらの2点は、茶褐色や黒を基調にしながらハイライトが効いていますね。ものの配置や構図にも気を配り、技術的に進歩しているのがわかります。

花と果物、ワイン容れのある静物》《プリムラ、洋ナシ、ザクロのある静物》

左:アンリ・ファンタン=ラトゥール《 花と果物、ワイン容れのある静物》 1865年 国立西洋美術館 右:アンリ・ファンタン=ラトゥール 《プリムラ、洋ナシ、ザクロのある静物》1866年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

《ひまわり》と《アイリス》

《ひまわり》と《アイリス》

左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890年5月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation) 右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年11月~12月 SOMPO美術館

SOMPO美術館は、5階から順に降りて鑑賞するのですが、4階の展示室中央にゴッホの《ひまわり》と《アイリス》が並んでいるのを観た途端、心臓が大きく「ドクン!」と鳴り、体中の血が沸き立つのを感じました。

《ひまわり》は100.5×76.5㎝、《アイリス》は92.7×73.9㎝とサイズ的にも大きいのですが、なにより作品の発する熱量が高いです。並べることによる相乗効果で、より大きく胸を揺さぶられました。

《ひまわり》

フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年11月~12月 SOMPO美術館

なんという演出でしょう!SOMPO美術館の《ひまわり》は常設展示されており、いつもは展示室の最後を飾るガラスケースの奥に鎮座しています。

ところが今展ではガラスケースから出て展示室の中央、ステージのように一段高くなった場所に、オランダ・アムステルダムのファン・ゴッホ美術館からはるばるやって来た《アイリス》と並ぶさまは、まるで王様と女王様のようでした。この2点の前でしばらく動けませんでした。

SOMPO美術館の《ひまわり》は、現在ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する、1888年8月に描かれた《ひまわり》をもとに描いたと考えられています。色合いやコントラスト、絵の具の重ね具合などがロンドンのものと異なります。単なる複製ではなく、色彩や筆致の研究の一環として描いたものと考えられています。

アムステルダムのファン・ゴッホ美術館にも《ひまわり》があり、こちらは1889年1月にSOMPO美術館の《ひまわり》をもとに描いたといわれます。

《アイリス》

フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890年5月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

青く見える《アイリス》の花。最近の研究で、もとは紫だった可能性があることがわかりました。

ゴッホが使用した赤い絵の具は非常に褪色しやすいものだったそう。弟テオ宛の手紙でゴッホは紫と黄色の補色効果について書いているそうです。ちょっと目を閉じて、紫の《アイリス》を想像してみました。

こちらのエリアには、ひまわりを描いた様々な作品も並び、興味深く鑑賞しました。

ひまわりを描く様々な作品が並ぶ

花の静物画

静物画といえば、なんといっても「花」が人気です。会場にはたくさん花の絵が溢れていました。

時代や作家によって表現方法が異なるところが興味深いですね。筆致の違い、質感の違いなどをぜひじっくりとご覧ください。

ルネリス・ファン・スペンドンク《花と果物のある静物》

コルネリス・ファン・スペンドンク《花と果物のある静物》 1804年 東京富士美術館

スペンドンクは写実的に静物を描いています。17世紀後半から18世紀にかけて園芸技術が発達し、花の種類が増加し、多種類の花を技巧的に配した豪華な作品が描かれるようになりました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アネモネ》

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アネモネ》1883~1890年頃 ポーラ美術館

印象派の代表的な画家のルノワールは、ゴッホとも交流がありました。明るい色彩と柔らかい筆致で描かれた《アネモネ》はまさにルノワールらしい作品です。

フィンセント・ファン・ゴッホ《野牡丹とばらのある静物》

フィンセント・ファン・ゴッホ《野牡丹とばらのある静物》 1886~87年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

ゴッホ《野牡丹とばらのある静物》は、豪華な花を薄塗りの柔らかい筆致で描いた作品で、真贋が問われてきましたが、2010年のクレラー=ミュラー美術館の調査でゴッホの作品と判定されました。この絵の下には《ふたりの格闘家(レスラー)》が描かれているそうです。

このほか、マネ、モネ、ゴーギャン、ヴラマンク、シャガールとすばらしい花の絵が展示されています。

ポール・ゴーギャン 《花束》

ポール・ゴーギャン 《花束》 1897年 マルモッタン・モネ美術館、パリ Musée Marmottan Monet, Paris

さまざまな静物画

ゴッホは静物画を描くことで色彩の研究をし、表現力を高めました。花のモチーフ以外にも、魅力的な静物画が展示されています。

ポール・セザンヌ 《りんごとナプキン》

ポール・セザンヌ 《りんごとナプキン》1879~80年 SOMPO美術館

ゴッホや、ポスト印象派のゴーギャンやセザンヌなどの作品より、印象に残ったものをご紹介します。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《靴》

フィンセント・ファン・ゴッホ 《靴》1886年9月~11月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

ゴッホは靴だけの作品を少なくとも7点描いています。古い、形の崩れた靴を蚤の市で買ったりもしていたそう。この靴、なんとも味わい深いですね。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《皿とタマネギのある静物》

フィンセント・ファン・ゴッホ 《皿とタマネギのある静物》 1889年1月上旬 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

《皿とタマネギのある静物》は亡くなる前年に描かれた作品。淡い色合いでありながら、《星月夜》や《糸杉》に通ずるいわゆる”ゴッホらしい”荒々しい筆致を感じました。

最後に

この展覧会はもともと、2020年10月にSOMPO美術館の新館開館の際に予定されていたものでしたが、コロナ禍で延期となり、3年の時を経て開催されました。

今年2月、私はアムステルダムのファン・ゴッホ美術館を訪れ、本展に出展されている作品のいくつかを鑑賞しました。こうして東京で再会できたことを本当にうれしく思います。

《ひまわり》と《アイリス》の前で

左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890年5月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)、右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年11月~12月 SOMPO美術館

毎年たくさんの展覧会が開かれ、海外からもたくさんの作品が来日します。それは平和な世の中であるから可能なことなのだということをあらためて心に刻み、それがいつまでも続きますようにと祈らずにはいられません。

この日の装い

この日の装い全身

ゴッホ《アイリス》のイメージで、紫がかったブルー系の染め大島紬に黄色を刺し色に。

この日の装い 帯回り

帯は、静物画風ウィリアム・モリスの意匠。帯締めは、道明笹浪組です。

この日の装い
この日の装い

2023.09.19

まなぶ

有職組紐 道明(東京都台東区上野・組紐)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.6

2023.06.24

よみもの

道明が切り拓く日本の美の未来形 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.16

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

ポスター画像

ゴッホと静物画ー伝統から革新へ

SOMPO美術館
https://gogh2023.exhn.jp/

日 時:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
    10:00~18:00(ただし12月8日(金)は20:00まで)
    ※最終入場は閉館30分前まで

休館日:月曜日(1月8日は開館)、12月28日~1月3日

※日時指定予約を導入いたします。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

ポスター画像

企画展 繡と織 華麗なる日本染織の世界

根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/

日 時:2023年12月16日(土)~2024年1月28日(日)
    10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)

休館日 :毎週月曜日、12月25日~1月4日まで、年末年始休館

※オンライン日時指定予約制

「111年目の中原淳一展」ポスター

111年目の中原淳一展

そごう美術館(そごう横浜店6階)
https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/

日 時:2023年11月18日(土)~2024年1月10日(水)
    10:00~20:00(入館は閉館30分前まで)
    ※12月31日(日)、1月1日(月・祝)は18:00閉館。
    ※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合がございます。
    
休館日:会期中無休

「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」ポスター

「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/nippon

日 時:2023年12月2日(土)~12月24日(日)、2024年1月1日(月・祝)~1月14日(日)
※2023年12月25日(月)~12月31日(日)は休館
    11:00~18:00(最終入館 17:30)

◆ 読者プレゼント ◆

ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 SOMPO美術館の招待券を2組4名の方にプレゼント!

会期は1月21日までですが、招待券の期限は1月12日です。ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoichiba/?hl=ja
◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2023年12月12日(火)まで

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