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森に棲む女たちの魅惑 『唄う六人の女』 「きもの de シネマ」vol.35

森に棲む女たちの魅惑 『唄う六人の女』 「きもの de シネマ」vol.35

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。竹野内豊×山田孝之のW主演で話題!男ふたりが迷い込む異様な世界を描いた『唄う六人の女』に注目します。

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2023.10.13

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謎を秘めた森で男ふたりが見たものとは

ごきげんよう、椿屋です。

芸術の秋がやってまいりましたね。
というわけで、今回ご紹介する作品はアーティスティックな1本をお選びしました。

京都や奈良で撮影された『唄う六人の女』。

主演は、渋さと柔らかさを併せ持つ竹野内豊さんと粗野な魅力にあふれる山田孝之さん。おふたりが、車の事故により人里離れた森に迷い込んでしまうところから物語は始まります。

竹野内さんが扮したのは、疎遠になっていた亡き父の過去を辿ることになるフォトグラファー・萱島

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

両親が離婚した4歳のとき以来顔を合わせることのなかった父親が、山奥でどんな暮らしをしていたのか。これまで知らずにきた父が遺したものに触れ、彼は何か引っかかるものを感じます。

対して、東京の開発業者・宇和島を演じるのが山田孝之さんです。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

萱島が父親から相続した山を買うために地元不動産屋(竹中直人)と連れ立ってやってきた彼は、どこか胡散臭くて、信頼が置けるような人物ではない。

しかし、マネージャー兼恋人の咲洲かすみ(武田玲奈)から早く帰ってくるようにと言われていた萱島は、違和感を呑み込んで契約書にサインをするのです。

その後、宇和島の荒っぽい運転で駅まで移動することになった道中、思わぬ事故が彼らの運命を大きく変えることになります。

男ふたりが主演を務めるにも係わらず、本作のタイトルは『唄う六人の女』。

そう……

彼らよりも重要なのは、森の中で出遭う”物言わぬ六人の女たち”なのです。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

一人目の女 ”刺す女”=水川あさみ
二人目の女 ”濡れる女”=アオイヤマダ
三人目の女 ”撒き散らす女”=服部樹咲
四人目の女 ”牙を剥く女”=萩原みのり
五人目の女 ”見つめる女”=桃果
六人目の女 ”包み込む女”=武田玲奈

このクレジットを見るだけでも、どこか異様な感じがしませんか。

実は、彼女たちの正体については映画のエンドロールで明らかにされます

奇怪な様子の彼女たちがいったい何を示唆しているのか、その真の姿を想像しながら鑑賞するのも一興かと存じます。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

過去と現在をつなぐ奇妙な縁(えにし)、そこに絡む巨大企業の陰謀。少しずつ明らかになっていく異質かつ不可解な謎……

『砂の女』『藪の中』『雨月物語』『天守物語』といった日本古来の伝承や民俗学的な幻想文学にも似た土着感の強い不思議な雰囲気が漂う本作は、ただ幻想的なだけでなく、常に観る者を惑わせるサスペンスの匂いも強く孕んでいます。

そこかしこにちりばめられた謎を紐解くヒントを、どうぞお見逃しなく

奇妙な女たちの美しさを際立たせる装い

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

片や異界のような森の生活に順応しつつあり、もう一方はとことん反抗し続ける——

対極をなす萱島(竹野内豊)と宇和島(山田孝之)を翻弄する言葉を持たない奇妙な女たちの姿かたち、その佇まいや雰囲気こそが、この物語の世界観をつくり上げているのは明白です。

深い森特有の不気味さ、生物の声や音による不穏さのなかで、ひと際、目を引く彼女たちのカラフルでインパクトのある衣装もまた、本作の異質さを生み出す要素のひとつでしょう。

とくに、真っ白な着物で日傘を差して現れる水川あさみさんの登場シーンは、思わず息を呑む衝撃です。傘の骨の赤と口紅の真紅が、妖しさを醸し出していました。

最も印象的だと言っても過言ではない当該シーンで彼女が手にしている日傘は、日本最古の京都和傘屋『辻倉』製

「用の美」という言葉がこれほどに相応しい日用品はそう多くはありません。手しごとの妙を、ぜひ大きなスクリーンでご覧になってみてください。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

光沢のある黒地に蛍光の黄緑色の縞や水玉の模様がデザインされた着物の際にも、襷と帯の赤が妖艶さを引き立てていて、見事な色使いにうっとりされる方も少なくないはず。

水川さんのクールな印象によく似合っています。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

眩しい光を背に現れる桃果さんが着ている赤の着物もまた、緑と茶がほとんどの山奥に映える装い

紺にも紫にも見える帯に黄金色の帯締めを合わせ、魅惑的な女性に。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

一人二役を演じた武田玲奈さんは、アメーバーのような柄が目を引く青系のコーディネート。着物と似たような配色の縦縞柄の半幅帯を結んだ、洋服のような組み合わせです。

本作に出てくる和装はどれも、総じてスタイリッシュ。昔ながらの和服のイメージを覆す、個性的かつ独創的な意匠になっています。

デザインを担当されたのは、嵯峨美術大学芸術学部デザイン学科観光デザイン領域の教授・江村耕市さん

その色の組み合わせや柄の配置など、尖がりすぎてはいないものの従来の和服から逸脱したまとめ方は、業界を越境して制作したからなのね……と、納得させられた次第です。

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

© 2023「唄う六人の女」製作委員会

魅惑的ファンタジーのようでもあり、どこか懐かしさを覚える寓話のようでもある本作から、どのようなメッセージを受け取るかは観る人それぞれ。

謎めいた秘密が暴かれた先にあるものを、どうぞ真っ向から受け止めてみてください。

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