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萬燈会とお盆飾り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.8

萬燈会とお盆飾り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.8

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。一年のうちで最もガチ勢な行事、「大西さん家のお盆」について詳らかにします。

2023.07.30

よみもの

若女将から4代目社長へ 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.7

お精霊さんのための仏壇掃除

当コラム編集者が里枝さんに興味を抱くきっかけとなったのが、X(旧Twitter)における「#お盆ガチ勢備忘録」のつぶやきだった。

いよいよ、その"ガチ勢なお盆"がやってきた。

机上に並ぶ仏具

机上に並ぶ仏具

8月9日(水)

帰ってくる「お精霊さん(おしょらいさん)」を迎えるための支度が始まる朝。まずは、お仏壇のお掃除から。

本尊を掃除する里枝さん

本尊を掃除する里枝さん

本尊や位牌など仏具を外し、埃を払っていく。

里枝さんが丁寧に位牌を拭いていく様子を見守りながら、母・優子さんは線香立ての灰を篩(ふるい)にかけている。

灰を茶こしで篩う優子さんの手元

「そんなんするんや?!」

驚く里枝さんに、「お線香の燃え残りが溜まったり、湿気で灰が固まったら、お線香が立たへんようなるからね」と優子さん。

仏具を仏壇に戻す里枝さん

普段見慣れていても置き場所は覚えていないもの。母の指導の下、仏具を一つひとつ仏壇へと戻していく

続いて、塔婆にご先祖様の名前を記していく。

塔婆に戒名を書く里枝さん

これも、里枝さんにとっては初めての作業。

100年以上受け継がれてきた帳面を頼りに、優子さんの書いたものをお手本に。恐る恐る筆を進める。

塔婆に戒名を書く里枝さん02

「大きくね」「もっと太く!」

母からの指示を受け、「母が上手なので……」と少し緊張した様子の里枝さん。

塔婆アップ

六波羅蜜寺に納める分と持ち帰って仏壇に供える分、同じものを2枚ずつ、約50枚を書き上げる。頼りは「お盆の控え」(左下)

これで、準備は整った。

塔婆を揃えて鞄に入れて、向かうは六波羅蜜寺。

残暑を乗り切る秋文様の浴衣

暖簾前or暖簾越しの着姿

立秋を迎えたばかりの撮影日、先般の多用さ(7月の社長就任)による疲れを感じさせない笑顔で出迎えてくれた里枝さんの装いは、クラシカルな組み合わせ。

流水に紅葉の葉を散らした「龍田川文」の浴衣に、鬼灯を思わせる朱色の帯が鮮やかなコーディネートだ。

ご存じの通り、奈良県にある竜田川は紅葉の名所として知られ、古くから多くの人に愛されてきた。

「古今和歌集」に詠まれた「龍田川 もみぢ乱れて 渡るめり 渡らば錦 中や絶えなむ」(詠人知らず)の一首を意匠化したものが「龍田川文」だといわれている。

後ろ姿

藍色に映える朱の帯が目を引く

母娘で六波羅蜜寺の萬燈会へ

例年8月8~10日に執り行われる六波羅蜜寺の萬燈会。

六波羅蜜寺

萬燈会とは、お精霊さん(ご先祖)をお迎えするための行事のひとつで、本堂内陣で灯芯による大文字を点じて、七難即滅・七福即正が祈願され、火の要心の護符が授けられる。

なお、萬燈会によって迎えられた精霊は、16日の五山の送り火によって送られる。

お参りする里枝さん

期間中は多くの人で賑わうため、大西家ではなるべく午前中の早いうちにお参りをすませるという。

手には、高野槇

「このあたりにお精霊さんが」とうれしそうな里枝さん

手には、高野槇。

この高野槇にお精霊さんを乗せて家まで案内するという。

蝋燭と線香を立て、本堂に手を合わせた後は、境内の北側にあるお堂へ。お精霊さんを迎えるための鐘を撞く。

鐘を撞く里枝さん

「おもっ!」と言いながらも、力いっぱい手綱を引き、鐘を音を響かせる里枝さん

そして、堂内の銭洗弁財天や水掛不動、水掛地蔵に水をかけ、お参りを終えたら、本堂の南隣にある塔婆納所へ。

塔婆を水に浸す里枝さん

お墓参りのときに墓石に水をかけることを「水向け」といい、お精霊さんが渇きに飢えないようにという願いが込められている。

塔婆を水に浸す里枝さん

墓石同様、仏様の象徴とされる塔婆にかけられた水も、お精霊さんへの供養となる。

通常、塔婆をお墓の脇や後ろに立てるのに対して、水に浮かべて供養するスタイルが「水塔婆(経木塔婆)」。これは、故人の戒名などを記した水塔婆を清浄な水で清めたり、川に流したりする「水回向」という方法で供養が行われる。

最後に弁天様にもお参りをして、向かったのはお寺の近くにある花屋「花安」だ。

「私が嫁いだときからずっとお世話になってます」と、優子さん。

花を受け取る里枝さん

高野槇に、菊・竜胆・禊萩・蓮といった花材をプラスして、仏花に仕立ててもらう。

これにて、お精霊さんのご帰宅が叶う。

花アップ
蓮アップ

仏壇に飾ったり、お供え物を盛ったりするための蓮の葉も購入

お盆は「五供」でおもてなし

食材

お盆(正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」)の間、一般的に香・花・灯燭・浄水・飲食の5つ=五供(ごく)を供えて、供養とする。

大西家では、毎年13~16日の仏前に供える食事がきっちり決まっているという。

※以下覚書、およびお盆期間中の料理写真すべて:提供/大西里枝
仏前に供える食事
仏前に供える食事

8月13日(日)

おちつき団子

仏前に供える食事

ゆるりと滞在していただけますようにと、まずは「おちつき団子」から

仏前に供える食事

自家製のシンプルなお団子

準備

翌日からの準備も

8月14日(月)お盆一日目

朝:おはぎ(粒餡・黄な粉)、ささげの胡麻和え、奈良漬、お茶湯

昼:ぜんまい、かぼちゃの煮付け、きゅうりなます、はじかみ生姜、お茶湯

おやつ:西瓜

仏前に供える食事

お盆一日目からは、ずらりとお料理が並ぶ

仏前に供える食事

お献立はなんと、毎日毎食変わる

仏前に供える食事

この日からはおやつも

8月15日(火)お盆二日目

朝:白蒸し、桃

昼:のっぺい汁、枝豆、ずいきなます、奈良漬、お茶湯

おやつ:素麺、お茶湯

仏前に供える食事

蓮の葉に盛られた白蒸しはインパクト大!

仏前に供える食事

朝食が終わればすぐに昼食の準備へ

仏前に供える食事

出汁を取らずに作るお供え用のお料理、お下がりをいただくときには現世用に手を加えて。ご先祖さまと同じものをいただく感謝とともに

おやつのお素麺

この日のおやつはお素麵

仏前に供える食事

母、優子さんの覚書

8月16日(水)お盆三日目

朝:あらめとお揚げの炊いたん、いんげん豆の味噌和え、茄子の味噌汁、奈良漬

土産:お団子

仏前に供える食事

いんげん豆の味噌和え

仏前に供える食事

丁寧な図解も添えられて

仏前に供える食事

お盆最終日には、お土産として(!)自家製のお団子が包まれる

16日午後、お土産のお団子と一緒にお供物を納めるために近くの公園まで。

公園に設置されたお供物入れ

京都市が公園に設置する「お供物入れ」

あとは、夜の五山の送り火に手を合わせれば、お盆ガチ勢は終了だ。

ご先祖さまと

大西家所縁のご先祖の皆々様、大西一家と里枝さん率いる大西常商店の面々をどうぞ見守っていてください。

あらめの煮汁を玄関に撒く「追い出しあらめ」。お精霊さんがこの世に未練を残さず、あの世に帰れるようにという願いを込めた風習
動画提供/大西里枝

協力/補陀洛山 六波羅蜜寺
撮影/スタジオヒサフジ

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