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若女将から4代目社長へ 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.7

若女将から4代目社長へ 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.7

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。7月1日に社長の座を引き継いだ彼女が、母から受け継いでいく「大西さん家の季節行事」に密着する一年。

2023.06.30

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母から譲り受けた薄物を晴れ着に

2023年7月1日、里枝さんは大西常商店の4代目 代表取締役社長に就任した

2016年の入社以来、IT導入に苦心し、新商品を開発し、新たな(激?)風を吹き込んできた彼女が、ついに名実ともに「4代目」となる。

連載中の代替わり。

7月29日に行われたお披露目会を前に、彼女とご両親の本音に迫る機会を得た。

インタビュー時の着姿

「間に合うんやろか」

出入りの大工さんらを労う合間に、里枝さんが首を傾げた。

そこに憂いの色はなく、あるのは「ま、なんとかなるわ!」という逞しさだ。

明後日のお披露目に向けて仮置きされていたカウンターが運ばれるなか、彼らと場所を譲り合いながらの決行となった今回の撮影。

里枝さんが着ていたのは、母・優子さんから譲り受けた、細かな水玉の縞模様が凛々しい夏小紋だった。

後ろ姿/帯アップ

先月の兎に続き、今月は猫。白グレーの夏帯は、シャリ感が清涼感をまとう

ポーズを変えるとちらりと顔を出す長襦袢を袖に仕舞いながら、「襦袢のサイズ、合ってないですね(笑)」と笑う。

社長という新たな肩書を背負う身とは思えない、相変わらずの軽やかさだ。

お披露目会当日は、これまた優子さんが愛用していた扇子柄の薄物で登場した里枝さん

扇子屋という家業の代表としてこれほど相応しい衣装はない。

里枝さん当日
扇子柄

要から先に広がり将来の発展を意味する末広文。夏らしいさっぱりとした白上げに金彩の糸目が光を捉え、薄水地に藤鼠と白のぼかしが趣きを添える

髪型

国民的家族アニメの主人公を思わせる髪型。この日ばかりはと伝説のエメラルド美容室にて。おはりばこさんのつまみ細工の髪飾りでおめかし

いつもよりはほんの少しおすまし顔で、いつも通りのノリで、乾杯の音頭をとる娘を、見守る両親の瞳はとても温かい。

取材チームも、その眩しさに思わず目を細めた。

乾杯
淡麗

お祝いの品、堂々の第1位は「淡麗グリーンラベル」

すでに450缶(!)を超える量が山となっているという

託す父の願い、寄り添う母の想い

里枝さんの父、大西久雄さん

里枝さんの父、大西久雄さん

娘に社長の席を譲ることで、気持ちや業務に何か変化はあったかと問えば、「変わりませんよ(笑)」との答え

「せんならんことは一緒です。従業員兼、丁稚(でっち)」

父・久雄さんは自らの立場をそうあらわした。

いずれ4代目「若女将」が4代目「社長」になるのは承知していたが、このタイミングの代替わりとなったのは、事業継承・引継ぎ補助金が大きな理由だという。

「それがなかったら、今回の改装も出来ませんでした」と、里枝さん。

町家のリフォームが得意なデザイナーに依頼した店内は、スタイリッシュながらも随所に昔の面影を残す粋な設えに仕上がった。

新店舗内観

新店舗の内観

古き良きものが消えゆくことに一抹の淋しさを覚えるが、完全に姿を変えるのではなく、生かしながら異なる装いへと変化させていく——

それもまた、文化を「継ぐ」ために必要な関門のひとつなのかもしれない。

そう思わせてくれる風通しの良さが、大西常商店の新たな空間にはあった。

格子をなくした

思い切って格子をなくしたことで、これまでと比べてふらっと入ってくる人が増えたという。

窓越しに通りを眺めながら久雄さんは、「ようなったと思います」とひと言。その言葉が、すべてを言いあらわしているように感じられた。

父から娘へ

私が父から引き継いだのは(バブル崩壊後の)難しい時代でしたけど、この人の方がもっと厳しい時代やと思いますわ

こう久雄さんが言えば、間髪容れずに「そうかぁ?」と里枝さん

頼もしいですね、というこちらの言葉に、「この人、男ですし」との返し

頑張ってくれとしか言いようがないですわ。今はSNSでたくさんお客さんが来てくれはるし、販売方法も変わってきてます。時代の流れですから、しゃあない。伝統産業はとくに職人が高齢化してますから、これからは作る方も(どうするか)考えていかんとあきません

課題を口にしつつも、父の言葉には常に娘への信頼が滲んでいた。

対して、母はというと……

母と里枝さん

心配です。前にもお話したように、大西家に100年ぶりにできた女の子で、しかも一人っ子やったんで、好きなように育ててきましたから。嫁がせるつもりで、家は継がなくていいと言うてきたんです」

自由に快活に育った娘を見ながら、「他家に嫁ぐことでさまざまな人生の勉強ができるのでは」と考えた優子さん。

彼女の意に反して、自立心の強い娘は嫁ぐことなど露ほども考えず、結婚相手は婿入りすることとなった。

母から娘へ

「(前職で)九州へ行って、京都から離れることで京都の良さが分かったんやろね。

口では『(家を)出ていきなさい』って言うてても、心の中では継いでほしいって願ってましたから、外での経験を経て継ぐために帰ってくるって聞いたときは、内心『しめしめ』と思ってました

掛軸を前にするお三方

超絶リアルな自画像の軸を出してきて、「初代か否か」で盛り上がる里枝さんたち。優子さんが「もう初代にしとこ」と言い、論争は決着した。「29日に飾ろうや、おもしろいし」と乗り気な娘に、「はいはい」と応じる両親の諦めにも似た表情が微笑ましい大西劇場の一幕

金庫

Twitterでバズった年代物の金庫。優子さん曰く、「初めて見たときはビックリしました。この家は、補修は何でもガムテープでね(笑)、こんな立派な金庫にもガムテープでバッテンがしてあったんですよ」

金庫2

ちなみに今は金庫としては使われておらず、初代の時代の書簡などがそのまま納められている

お釜にビール

新たに設置したバーカウンターには、クーラー代わりの釜が鎮座。このスペースを利用して不定期開催のイベントも企画中とのこと

先祖への感謝を原動力に邁進する

里枝さんが事業承継についてリアリティをもって考え始めたのは、ここ一年のことだという。

「跡継ぎのコミュニティで周りの人たちが頑張ってはる姿を見て、何でも早め早めに準備しとかんとあかんなぁ、と考えるようになりました。父ももう70歳ですから、いきなり何かあってからでは困るので、段階的に」

里枝さん

里枝さんが、仰天するほどアナログだった在庫管理にアプリを導入したのが約2年前

「重要度は高いけど、緊急度の低い業務やったので、コロナ禍じゃなかったらできてなかったですね…… LINEもようせぇへん父が、スマホ片手にトレーニングして、在庫管理してくれてる姿には感謝しています

里枝さんが感謝しているのは両親だけではない。

製造部門を内製化するため、20代の社員が職人のもとへ通い、技術の習得に励んでいることにも有難さを感じている。

不在がちな彼女に代わって、家事育児だけでなく精神面でもサポートしてくれる夫にも謝意は尽きない。新商品の開発において力を貸してくれた友人たちも然り。

「一人ではできないことも、周りにいるお友達に助けられて何とかやれてると思います」という母の言葉を受けて、里枝さんも「力になってくれる人が多くて、ほんまに恵まれてます」と、満面の笑みを見せた。

里枝さん2

また、信心深い大西家では、墓参りも欠かさない。……どころか、里枝さんに至っては、週一ペースだという。

「朝ランの途中に立ち寄ることが多いですね。ご先祖さまには、命だけでなく仕事も継いでもらってるから。それをちゃんと繋いでいかないと

あっちの世界へ行ったときに胸を張って『頑張りました!』って言えるように。サボらず、前向きにやりたい。それが、原動力になってます」

ルームフレグランス

ルームフレグランス『かざ』

5年、10年先のことははっきりとは言えないが、まず「今はフレグランス(ルームフレグランス『かざ』)を頑張りたい」と意気込む。

来る9月には、新しく硝子の容器を発売する予定だ。

OEMなど、別注の仕事も大切にしていきたいと思ってます。もちろん、お客さんと直に接することができる小売りも大事。

これまでは、問屋さんや卸先の小売店さんが好きな商品を作ることがメインでしたが、これからは、自分たちがほんまに美しいと思えるものを手掛けていきたい

扇子を軸に、京文化を伝えていく仕事を生み出していきます

木版やそろばん

やわらかな笑顔の裏に秘めた、決意と覚悟。柳のようにしなやかに、向日葵のように元気に、里枝さんが進む道はきっと明るい。

さて次回は、大切なご先祖さまを迎える大西家の盂蘭盆会についてご紹介します。どうぞお楽しみに。

懐中時計

引継ぎにあたって、譲り受けた懐中時計。修理に出したものの日常使いは難しく、「お守りとして大切にします」と里枝さん

撮影/スタジオヒサフジ

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