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能楽堂解体! ~女流能楽師・田中春奈さんに聞く~ 「気になるお能」vol.2

能楽堂解体! ~女流能楽師・田中春奈さんに聞く~ 「気になるお能」vol.2

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無表情な面、聞き取れない言葉、古い価値観——能楽へのハードルは高く感じてしまいがち。室町時代から受け継がれてきた日本を代表する舞台芸術への扉を、一緒に開いてみませんか? 2回目は、能楽を演じる専用空間「能楽堂」の舞台構造に迫ります。

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席種は好み!違いを体感せよ

能舞台

vol.1では、能楽も他の現代劇を観るのと同じように楽しめるという話でしたが、通常の劇場と大きく違うのがその”舞台のカタチ”です。

能楽が演じられる能楽堂は、客席が3つのタイプに分かれています

・本舞台の正面に据えられた「正面」
・舞台を真横から見る「脇正面」
・正面と脇正面の中間で全体を見渡せる「中正面」

「同じ曲でも場所によって見えるものが異なるため、随分と印象が変わります。いろんな見え方を体感してみましょう」(田中春奈さん)

田中春奈さん

「橋掛り」は最強の舞台装置

「橋掛り」

脇正面に面している登退場用の渡り廊下のような通路を「橋掛り(はしがかり)」といいます。

橋掛りは五色の揚幕(緞帳代わりの布)の向こうにある「鏡の間」(演者が出番を待つ部屋)と本舞台を結ぶ通路としてだけでなく、あの世(霊界)とこの世(現実世界)を繋ぐ役割も担っています。

また、旅に出たり、遠くから人が訪ねてきたりといった時間的変化をあらわすこともあるのです。

五色の揚幕
「橋掛り」

「オープンになっている渡り廊下のような橋掛りも、舞台の一部

登場したシテ(主役)がゆっくりと歩いていく様子が物語のプロローグとなったり、『羽衣』では橋掛りの欄干を天女の羽衣をかけるために使ったり。

そうかと思えば、演者が座って控えているときは舞台から見えていないという設定だったりもします」

橋掛りの松と春奈さん

橋掛りの手前にある松は、本舞台に近い方から一の松・二の松・三の松と呼ばれます。

サイズ違いになっていて、遠近法の演出効果があります。さり気ない舞台装置ですね。橋掛りが斜めになっているのも奥行きを感じさせ、その角度や長さは能舞台によって異なります。

長いときは登場の歩幅やスピードで調整するので、実はけっこう大変です(笑)」

能舞台に欠かせない松の役目

本舞台正面の羽目板には立派な松が

どの能楽堂でも、本舞台正面の羽目板には立派な松が描かれています

松は古来より「常盤の松」と言われ、生命力の象徴として親しまれてきました。また、松は神の宿る木として、神の依り代(よりしろ)と考えられ、神社等で能楽が演じられていた時代には、境内にある松に向かって奉納されていたのです。

「松が描かれているのは板ですが、その板を鏡に見立てて、舞台の前に立っている松が鏡に写っている状態を表現しています。そこからこの板は『鏡板』と呼ばれます

また描かれている松は『影向(ようごう)の松』といって、私たち演者は、松に宿る神様とお客様に向かって演じているのです。

舞台によって松もそれぞれなので能楽堂ごとに見比べてみるのもいいですね」

舞台が屋外にあった頃の名残

舞台をぐるりと囲む白い玉砂利

舞台をぐるりと囲む白い玉砂利。これを「白洲(しらす)」といいます。

能舞台が屋外にあったときの名残で、もともとは太陽の光を反射させて舞台の照明とする、レフ板のような役割もありました」

能舞台の屋根

屋外にあった時代の名残といえば、屋根。

能舞台は宮大工の技や日本古来の建築技術を取り入れて建てられるため、屋根ごと劇場の中に取り入れたなど諸説ありますが……

能舞台で何より大切なのは、実は柱。四隅に柱が必要なので屋根も残したという説が有力だと思います」と、春奈さん。

「能舞台は面(おもて)を掛けると遠近感が乏しく、極端に視界が狭くなります。そのため私たちは、自分の位置や方向を確認するため、また舞台から落ちないように(笑)、柱を目印にして動くんです」

春奈さん

手をグーにして少し隙間をつくった掌を目の前にあてて周囲を見回してみよう。それが能面をつけたときの見え方です。その視野の狭さにビックリ!

撮影協力/金剛能楽堂
撮影/スタジオヒサフジ

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